読書感想文(二冊分)

学生街の殺人 (講談社文庫)「学生街の殺人」 東野圭吾
舞台は学生街。けれども、新しい学生街ができてしまったために、常連や何かわけありのお客しか来ない、さびれてしまった街。そこを舞台に殺人が起こったり、色々な人間模様を感じ取ることができます。主人公は大学卒業後も就職をせず、アルバイトをして過ごしている光平という青年。以前読んだ「放課後」「卒業」に続くお話…という形になっていると思っております。解説にもそのようにあったので、あながち間違ってはいないのではないかと。話の感想の前に…。この方の小説は、ものすごい大作! という印象は私にはありません。が、話に引き込まれてしまう…引力とでも言いましょうか、それをすごく感じます。その理由はやはり、人間の内面や対人関係、セリフ等にリアリティがあるからかな、と。もちろん殺人事件の動機やトリックにもひかれますが。
さ、感想。前の二作は、この日記で感想を書いた通り、すごく後味が悪かった。けれども、この作品はラストが何となく明るくて、小さな光がキラリと見えるような…そんな印象を持ちました。それは光平の新しい行動によるため…なのですが、何だか励まされたような気がいたします。何気に、三部作の中には結構な名言があったと思います。…覚えてないとこが私のダメなところなんだけど(苦笑)。高校を舞台にした「放課後」はともかく、大学卒業を間近に控えた人達の「卒業」、そして今回の「学生街の殺人」は自分の現状と微妙にマッチしているので、一つ一つのセリフや言葉が胸に響くのかも知れません。
好きな場面は、光平と父親の会話と、ラストで光平と刑事がとある画家の作品について話しているところです。しんみりとしつつも…良い場面だなぁ…と。たとえ、人生における通り道と言ってしまえるような狭い場所であっても、今の自分にとって間違いなく、大切な居場所である(であった)…ということを改めて知ったような気がします。そして、そこから旅立っていくのは当たり前のことであり、素晴らしいことであったとしても、……寂しいものよね、とも思いました。うむ。分かりづらいけど(苦笑)。こんなかんじで、三部作を感傷的に再読した次第であります。


十字屋敷のピエロ (講談社文庫)「十字屋敷のピエロ」 東野圭吾
私が初めて読んだ東野氏の小説はこれ。懐かしいなぁ…と思いながら再読しました。やっぱり面白かった。このシリーズができたらいいなぁ…と希望してるのだけれど、無理だろうな。残念だわ。何作も書かなくていいから、あと二、三作…(笑)。というのもですね、このお話はとあるお金持ちの屋敷にやってきた人形(ピエロ)の視点が、ストーリーの合間合間に入っているのです。つまり、登場人物が謎について頭を悩ませているところ、読者である私たちは彼らが知り得ない情報を知ることができるのです。とはいえ、ピエロも人格を与えられている身。頭から彼の思考を信用することは、注意せねばならなかったりするのですね。それが面白くて、私は好きなのです。
ちょいとネタバレになってしまうのですが、最後まで読んで、京極氏の「絡新婦の理」を思い出しました。何が、とは言いません。それこそネタバレになってしまうし。ということで、最後に非常に驚かされるのですが……切ないなぁ。何かあるな、とは思っていたけれど…そうだったのか! と。あぁ…。