東野作品感想

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)「仮面山荘殺人事件」 東野圭吾
あらすじ。主人公は、その亡くなった婚約者の親族とで別荘に避暑に行くことになった。が、その先で二人の銀行強盗が侵入してきて……八人は避暑どころではなくなってしまう。そんな中ついに、一人の女性が殺されてしまった。亡くなった婚約者の事件と絡めながら、犯人探しに挑んでいく主人公達。……文庫の背表紙にあるあらすじと、あまり変わりがない。
いわゆるどんでん返しが最後に見られるのだが……こりゃあびっくりだ。作者も登場人物も、よう考えたなぁと。しかし……そこまでやる執念の方が怖い。ネタバレになるので多くは語らないけれど。そしてその執念はラストに冷たく表現されているわけだが、いつものごとく読後感の悪さ感じさせられた。
動機。殺人と殺人未遂の動機が本作品にはあるわけだが、どちらもしょうもない。これは作者に対する批判ではなく、犯人に対する批判。殺人者には明るい未来は無い、ということを言い放ちたい気分。だから、読後感が悪くてもどこか……さっぱりとしてしまう。こんな自分、どうか。



ある閉ざされた雪の山荘で (講談社文庫)「ある閉ざされた雪の山荘で」 東野圭吾
あらすじ。とある舞台のオーディションの合格者七名がペンションに呼ばれ、演出家の指示に従ってその場で舞台稽古が行われることとなった。季節は春なのに、舞台の設定は冬。しかもそこでは殺人事件が行われるという。それは実際に行われた殺人なのか、お芝居なのか。この舞台稽古には他に意味があるのか。
地の文が、天の声と登場人物の一人・久我和幸のと二種類あるわけだけど……この久我という男、全然好きになれなかった。いつも心の中で他人を小ばかにしているというのが、自分は読者なのに読んでてイライラしてしまった。そういう人、結構いるかも……と思っていたけれど最後の最後で、それをフォローするかのようなシーンがあって苦笑。苦笑したのはそれが理由だけではなく。
以下、ネタバレ含むので反転。この入り組んだ舞台稽古の理由や、実際に起こったことの真相が判明し…。久我が泣く理由となった、登場人物達の和解のシーン、これは要らんかった。正直。私が彼女だったなら、絶対に許さない。涙を流して反省しようが、それはその時だけのことだと思うから。本当にこの事件は解決したのか…一年も経てばわかってきそうだけれど、そこまでは要る話ではないか(笑)。
実際の役者達と、舞台設定を示され演技をする役者達*1……と、二種類の話が読めたような感覚が味わえて好きな作品。お手軽です、私(笑)。古典的な設定を、新しい手法で読者を楽しませる……といったところでしょうか。すごい。



同級生 (講談社文庫)「同級生」 東野圭吾
東野氏の書く学園設定のミステリ、すごく好きだと再確認した作品。やはり雰囲気をリアルに感じられるのは「高校」だなぁと感じる今日この頃。中学じゃ何だか子供だし、大学だと人間が自由過ぎる。自分も通り過ぎた場所だから懐かしさを感じるのかも知れないなぁ、なんて。
あらすじ。主人公の西原は、自分の子供をお腹に宿したガールフレンドを失ってしまった。彼女の仇をうつため、コトの真相を暴こうとする。のだが……。
作者の「教師嫌い」が目に見えてわかるような作品…(笑)。まぁまぁ、それは言いすぎとしても、生徒に嫌われる教師像がはっきりと描かれている…と思う。教師と生徒の間に線が引かれている……というか厚い壁が感じられるような。そこらへん、ちょっと寂しさを感じさせられつつ……登場人物達の若さが羨ましかったり。
西村と川合の最後のシーンが、すごい好き(^^) いいねぇ熱いねぇ。青春。



むかし僕が死んだ家 (講談社文庫)「むかし僕が死んだ家」 東野圭吾
読む前と読んだ後では、タイトルの捉え方が変わってくる。主人公がラストで語った(?)文章に影響された。私も、自分が死んだ家が…二つある、のかも知れない。そしてそこには自分の死体がある…かも知れない。さらに、今住んでいるこの部屋も、今の自分が死んだ場所となるのだろう、いずれ。……そういうことを考えると、人生の果てしなさを感じてしまう。……ちなみに、この文章(↑)はネタバレとは関係ないのでご安心を。
あらすじ。幼い頃の思い出が無い…、それを解明するため、一緒に「とある家」をたずねて欲しい…と元恋人に頼まれた私。実際に行ってみると、次から次へとその家に住んでいた人たちに対する謎が出てくる。果たして、彼女とこの家の住人と関係はあるのか。軽い気持ちで読み始めたこの小説、読んでいくうちに続きが気になって気になって、あっという間に読み終わってしまった。数多くの謎がするすると解明されていく流れには、気持ち良ささえ感じてしまう。とある子供の日記をもとに話が進んでいくため、現実で何か事件が起こり、スリルや緊張感を感じるということは無いのだけれど、面白かった。
あとは、微妙に家族関係の問題*2なんかも書かれていて心が痛くなってしまった。結構新し目の作品ということで、現代の風をちょっと感じたしだい。



「白馬山荘殺人事件」 東野圭吾
謎が多いマザーグースについて、ちと興味をもつきっかけになった…かも。
兄の死の真相を調べるため、友人と二人で冬のペンションを訊ねることとなったナオコ。その各部屋にはマザーグースの歌が飾られていて、それが兄の死と関係があるのかも知れない、と謎解きを始める二人であった。
読み終えて見ると、ほんの僅かだがコナンを思い出してしまう(笑)。友人と暗号の謎解き…という共通項だけでそんなことを思う自分の脳はかなりコナンかぶれしているようだ。



11文字の殺人」 東野圭吾
なんともやりきれなく、後味の悪いラストだった……。またアニメの話で申し訳ないけれど、金田一少年やコナンでも出てきた、海での遭難事故はあとあとになって色んな方向に後を引くのだな、と思った。絶体絶命の時というのは、人の本性が出る…しかも良い方ではなく悪い方の。何だか、胸か頭がズキンとしてしまったよ。
このストーリーでの「動機」は、またまた考えさせられるものだった。殺人の動機はその人の価値観のようなもの、という風なセリフが東野氏のどれかの小説にあったと思うのだけれど…それを如実に表現した話ではないかな、と感じた。そのセリフが妙に頭に残っていて…久し振りに真面目に頭を働かせたりして。結構名言じゃないかなぁ、これ。価値観にはなるけれども、実際に殺人は起こしちゃいかんよ……って当たり前やね。私は、どういうときに本物の殺意を感じたりするのかな。犯罪者になって自分の身を滅ぼす、というのがまず有り得ないので、すごくすごく我慢するのだろう。色んなことを。握り締めた拳から血が垂れてくる程に。先の自分のため、今の怒りを我慢する……そんな生き方をしているのかもしれん。…多分。



「美しき凶器」 東野圭吾
非常にスリリングなお話だった。とある人物が復讐のために殺人などを繰り返すのだが……。言葉を発するシーンがなく、動きや様子のみが表現されていたため、実態が掴めなくてすごく不気味な印象。しかし、最後のシーンではぞわわわわ、と鳥肌が立ってしまった。この人も、同情すべき人間だったのだな、と感じて(殺人はいけませんが)。
あと、…以下反転。女性はやはり怖いな、と(笑)。腹黒いというかなんと言うか……。男同士の対決より、女同士の対決の方が何倍もコワイ。色々な意味で。ショウコとサヨコの対決は、読んでて胸が悪くなった。自分も、この人たちと同じ女なのだなと思うと、嫌な気分に…。



「妖しい人びと」 東野圭吾
短編集。以前、バイトの休憩時間に読んでいたのだけど、まさにそれ用の小説といった感じ。種類の違う(?)お話がいくつかあるけれど……コレといって特筆すべきことはないかなぁと。つまらなくは無いけども……まぁ、普通。解説者は誉めすぎ。旅のお供に、本当に良さ気な一冊かと。好きな短編をあげるとしたら、「灯台にて」と「甘いはずなのに」かな。

*1:実際は「もしこれが本当の事件なら…」と、考えながら話は進んでいく。

*2:身体的、性的な虐待など。