すべてがFになる THE PERFECT INSIDER

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

超久しぶりに再読。ネタバレ注意。
感想文は過去に書いたものを踏まえて、改めて書き直した。
犀川先生&萌絵シリーズの第一弾。森氏の作品は、私が今までよんできたミステリとは全く色合いの違うもので、新鮮味を感じた。理系ミステリと言われてるだけあって、登場人物の考え方や思考回路がすごく論理的で、私とは全然違う人種だなあ…と(笑)。萌絵が多少感情的になる場面があったけど、全体的に登場人物は冷静なイメージ。だからか、警察の人間がとても浮いてるように見えた。珍しい現象だわ…(笑)。物語の舞台の建物もコンピュータが完全に管理していたり、簡単なロボットが出てきたり、何かハリウッドのSF映画のよう。
あらすじ。天才工学博士・真賀田四季が三重の密室(島、建物、博士の部屋)で殺害された。過去の殺人事件のため十五年間、ほとんど誰とも会わずに過ごしてきた博士が殺害された理由、そしてさらに続く殺人。過去の殺人事件は今回と関係があるのか。完璧のはずだったセキュリティシステムも異常をきたし、その謎を解明しようとする技師達。博士が書き残した、「すべてがFになる」の意味とは。謎だらけの事件も、犀川の推理(思考?)によって解明される…が、犯人が事件を起こした理由は、本人の話を聞いても彼には理解はできなかったもよう。犯人の思考回路や育ってきた環境を考えると、そこまで大々的な計画でやるかという思いも、納得できるような…できないような…。初めて読んだ時、この動機に対して「そんだけ? えー…」と思ったもんだけど、今は何となく分からんでもない。犯人に対して悲しさすら感じる。
犀川と萌絵の関係は、これから…といった感じなのかな。萌絵はわりと積極的で、犀川は多分その気持ちに気づいているようだけど、どうなるんかわくわく。女性と二人で食事をしたことが無いと書かれていたし、犀川は奥手ぽいのー。自分から何かしら行動することはあるんだろうか。他人に干渉することもされることも嫌いな犀川と、ちょっと世間離れしたお嬢様、しかし頭の回転は速い萌絵…思考回路が論理的ということ以外に共通点の無い変わったコンビだけど、それが逆に良いなと。
二人の会話に、記憶と思い出の違い、バーチャルリアリティに対する考え方があり、なかなか面白かった。が、犀川バーチャルリアリティに対する考え方はとても賛同はできなかった…。他人と直接コミュニケーションをとることすら珍しい世界にいずれはなる、と。それに対し犀川は肯定的な立場なのが何とも。萌絵は悲しかったろうなあと思う。思いを寄せてるならなおさらだろうなあ…せつな。
解説者が、「何が森博嗣の小説を「理系」たらしめているのか。」という問いに対して、「認識やリアリティに対するアプローチの仕方なのである」という答えを出していて、なるほど!と。非常に明確で的確な意見だわ。